
「駅から近くて家賃も手ごろ。ここでジムを始めよう」――そう思って申し込んだあとに、「サンドバッグは吊るせません」「格闘技の利用はお断りしています」と言われてしまう。格闘技ジムの物件探しでは、こうした話が珍しくありません。
キックボクシングジムやボクシングジムは、一般的な店舗や事務所とは使い方が大きく違います。サンドバッグを天井から吊るし、リングを置き、蹴りやジャンプで床に強い衝撃がかかります。夜には人が集まり、声や音も出ます。物件の条件によっては、内装工事が思ったよりふくらんだり、そもそも希望のジムがつくれなかったりします。
ベストキッドの代表は、これまで全国500人以上のジム会長と話してきました。その中でも「物件選びでつまずいた」という話は何度も出てきます。この記事では、これからジムを開業する方に向けて、格闘技ジムの物件選びで見ておきたいポイントを順番にまとめます。
格闘技ジムの物件選びは「家賃・立地」の前に確認することがある
物件探しでは、どうしても家賃・広さ・駅からの距離に目が行きます。もちろんどれも大切です。ただ、格闘技ジムの場合は、その前に「そもそもジムとして使えるか」「必要な設備が入るか」を確認しておく必要があります。せっかく条件のよい物件を見つけても、ジムとして使えなければ、検討した時間がむだになってしまいます。
大きく分けると、確認したいのは次の4つです。
- 法律・建物のルール上、ジムとして使えるか(用途地域・建物の用途)
- ジムの設備が物理的に入るか(天井高・床の強さ・広さ)
- 音や振動で近隣とトラブルにならないか(階数・下の階の用途・構造)
- 契約の条件がジム向きか(貸主の承諾・原状回復・工事の範囲)
ここから順に見ていきます。
用途地域と建物の用途を確認する
用途地域によってはジムが建てられない・使えない場合がある
土地には都市計画で「用途地域」が決められていて、地域ごとに建てられる建物の種類が制限されています。建築基準法の用途制限の一覧表では、ボーリング場・スケート場・水泳場などが「運動施設」として整理されています。運動施設は、低層住居専用地域や中高層住居専用地域では建てられず、第一種住居地域では一定の面積以下に限られます。
格闘技ジムやフィットネスジムがこの「運動施設」にあたるかどうかは、自治体の判断になる部分があります。気になる物件があれば、所在地の用途地域を自治体の窓口や都市計画図で調べ、ジムとして使えるかを早めに確認しておきましょう。
「用途変更」の手続きが必要になることもある
もともと事務所や店舗として使われていた部屋をジムにする場合、建築基準法上の「用途変更」にあたることがあります。川崎市の案内では、確認申請が必要になるのは、変更後の用途が特殊建築物にあたり、かつ用途を変える部分の床面積が200平方メートルを超える場合とされています。また、確認申請が不要な場合でも、法律の基準には適合させる必要があります。
小さめのジムなら申請不要のケースも多いですが、ビルの規模や他のテナントとの関係もあるため、内装を頼む会社や建築士に一度見てもらうと安心です。
天井高・床・広さ:ジムの設備が入るかを確認する
天井高はサンドバッグとリングで決まる
格闘技ジムで特に大事なのが天井の高さです。サンドバッグを天井から吊るすなら、バッグの長さに加えて、吊り金具やチェーンの分の高さが必要です。リングを置く場合は、リングの床(台)の高さの分だけ、リングの上で動く人の頭上の空間が狭くなります。
どのくらいの天井高があれば足りるかは、サンドバッグの種類、リングの台の高さ、天井の梁(はり)や設備の位置で変わります。「この天井高でサンドバッグは吊るせる?リングは置ける?」といった疑問は、図面や写真があればお答えできます。物件の内見では、図面上の天井高だけでなく、梁が下がっている場所、照明やエアコンの位置も実際に見ておきましょう。
天井と床の「強さ」も見ておく
サンドバッグを天井から吊るすには、天井側にしっかり固定できる構造が必要です。天井が仕上げ材だけで、その上の構造にきちんと取り付けられない物件もあります(天井にボルトを打たずにサンドバッグを吊るす方法)。
床については、建物ごとに「どのくらいの重さに耐えるよう設計されているか(床荷重)」が決まっています。たとえば国土交通省の資料では、一般的な事務室の積載荷重を2,900N/㎡としています。リングやサンドバッグ、トレーニング器具の重さに加え、人が集まって動くときの重さにも床が耐えられるか。貸主や管理会社に確認しておきたいところです。
広さは「何を置くか」から逆算する
ジムに必要な広さは、リングを置くか、サンドバッグを何本吊るすか、更衣室やシャワーをつくるかで大きく変わります。
ベストキッドでは、物件に合わせたサイズのリングを製作しています。サイズの例としては、4.5m角、5m角、5.2m角、5.5m角などがあります。たとえば練馬区の「Kickboxing Studio Kami-Shakujii」は9坪弱の物件です。そのスペースに合わせたサイズのリングを製作しました。
「リングを置くには広い物件が必要」と思い込まず、まず何を置きたいか、どう使いたいかを整理してから物件を見ると、選べる範囲が広がります。
騒音・振動:1階か空中階か、下の階は何か
格闘技ジムで問題になりやすいのは「振動」
格闘技ジムの音のトラブルは、音楽やかけ声よりも、サンドバッグを蹴ったときの「ドン」という衝撃や、縄跳び・ステップの着地が原因で起きやすいものです。床や壁に伝わった衝撃は、建物の構造を通って、真下や隣の部屋で音として出てきます。
1階と空中階(2階以上)の違い
一般的に、1階は下に部屋がないため、床に伝わる衝撃で下の階に迷惑をかける心配が少なくなります。通りから見えやすく、看板も出しやすいのも1階のよいところです。一方で、家賃は高めになる傾向があります。
2階以上の空中階は、家賃を比較的抑えやすい反面、下の階への振動対策をしっかり考える必要があります。内見のときは、次の点を確認しておきましょう。
- 下の階・隣の部屋は何に使われているか(住居、店舗、事務所)
- 夜の時間帯に人がいるか
- 建物の構造(鉄筋コンクリート造、鉄骨造、木造など)
- 以前の入居者のときに、音のトラブルがあったか
防音・防振の具体的な考え方は、格闘技ジムの防音・防振対策の記事で詳しく紹介しています。
スケルトン物件と居抜き物件、どちらを選ぶ?
スケルトン物件:自由につくれるが、費用と時間がかかる
スケルトン物件とは、柱・壁・床・天井などの構造だけの状態で引き渡される物件です。内装がないぶん、レイアウトやデザインを自由に決められ、リングやサンドバッグの位置もジムに合わせて考えられます。
その一方で、壁・床・天井・照明・電気・空調などをいちからつくるため、費用と準備期間がかかります。また、スケルトンで借りた物件は、退去するときもスケルトンに戻して返すのが一般的です。解体や撤去の費用も、最初から見込んでおきましょう。
スケルトンは自由度が高い分、内装工事の費用がかさみやすくなります。金額は物件の状態や入れる設備によって大きく変わるため、候補の物件が見つかった段階で見積もりを取り、居抜きと比べてみるのがおすすめです(開業費用の内訳)。
居抜き物件:初期費用を抑えやすいが、確認が大切
居抜き物件は、前の入居者の内装や設備が残っている物件です。工事が少なくてすむぶん、初期費用や開業までの期間を抑えやすいのがメリットです。
ただし、前の業種がジムでなければ、残っている内装がかえって邪魔になることもあります。また、残された設備の状態や、退去時にどこまで元に戻す必要があるのか(原状回復の範囲)は、物件ごとに違います。「居抜きだから安い」と決めつけず、残す物・撤去する物を整理してから判断しましょう。
格闘技ジムの居抜き物件が見つかれば理想ですが、数は多くありません。スケルトンでも居抜きでも、「その物件でどんなジムをつくるか」を先に描いておくことが大切です。
契約前に貸主・管理会社へ確認したいこと
物件が気に入ったら、申し込みや契約の前に、次のことを確認しておきましょう。口頭だけでなく、できれば書面で残しておくと安心です。
- 格闘技ジムとしての利用を認めてもらえるか(「スポーツジム可」でも格闘技はNGという物件もあります)
- サンドバッグを天井から吊るせるか、天井や床への工事は認められるか
- リングの設置ができるか(床に穴を開けない設置方法も含めて相談)
- 営業時間の制限はあるか(夜間・早朝の利用など)
- 看板を出せるか、どこに出せるか
- 原状回復の範囲(退去時にどこまで戻すか、スケルトン戻しが必要か)
- 内装工事の期間中の賃料の扱い
特に「格闘技ジムとして使ってよいか」と「サンドバッグ・リングを設置できるか」は、あとからダメだとわかると、開業計画そのものが崩れてしまいます。最初の段階ではっきりさせておきましょう。
物件探しから相談できる「ジム丸ごとプラン」
ここまで見てきたように、格闘技ジムの物件選びは、内装・リング・サンドバッグの設置まで見通して判断する必要があります。ただ、開業準備中に、不動産会社、内装会社、リングメーカー、看板屋さんと別々にやりとりするのは大変です。
ベストキッドの「ジム丸ごとプラン」では、物件探しの相談から、内装、リング、サンドバッグハンガー、看板まで、窓口ひとつで開業までお手伝いしています。たとえば先ほどの「Kickboxing Studio Kami-Shakujii」では、物件に合わせたサイズのリングを製作しました。あわせて、スケルトンの状態から壁・床・天井・照明の施工までを担当しています。
「この物件でジムができるか見てほしい」「スケルトンと居抜き、どちらがいいか迷っている」といった段階からでも大丈夫です。詳しくはジム丸ごとプロデュースのページをご覧ください。
まとめ
- 格闘技ジムの物件は、家賃や立地の前に「ジムとして使えるか」「設備が入るか」を確認する。
- 用途地域や建物の用途によっては、ジムが建てられない場合や、用途変更の手続きが必要な場合がある。自治体の窓口で早めに確認を。
- 天井高はサンドバッグとリングから、広さは置きたい設備から逆算する。天井・床の強さも要チェック。
- 1階は振動の心配が少なく、空中階は家賃を抑えやすい反面、下の階への振動対策が必要。
- スケルトンは自由度が高いが費用と時間がかかり、退去時の原状回復も見込む。居抜きは初期費用を抑えやすいが、残す物と原状回復の範囲を確認。
- 契約前に、格闘技ジムとしての利用・サンドバッグやリングの設置・原状回復の範囲を、貸主・管理会社に書面で確認する。
物件選びは、ジムづくりのいちばん最初の、そしていちばん大きな決断です。物件探しの段階から、内装・リング・設備まで一緒に考えたい方は、お気軽にご相談ください。
こんなこと、聞いてみませんか?
- 「この物件、格闘技ジムとして使えそう?」
- 「スケルトンと居抜き、うちの場合はどっち?」
- 「9坪くらいの広さでもリングは置ける?」
物件の図面や写真があれば、それを見ながらお答えします。「まだ物件も決まっていない」という段階でも大丈夫です。
物件の図面や写真があれば、見ながらお答えします。まだ物件が決まっていない段階でも大丈夫です。